【製造業 × 生成AI】PCB設計のレイアウトを自動化する生成AI サービス:Quilter
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PCB設計のレイアウトを自動で数十通りデザインする生成AI サービス「Quilter(キルター)」を徹底解説。
PCB設計(Printed Circuit Board:プリント基板)は、要件定義・回路設計・部品選定・PCBレイアウトの策定・DRC(Design Rule Check:製造時に発生し得る問題を回避するために設定された基準を満たしているかチェックすること)・プロトタイピングなど、多くのプロセスが必要になります。
全工程で高度な設計知識と経験を要求される中、特にPCBレイアウトはコンポーネントの配置やトレースの引き回しに多大な時間と労力が必要です。
なお、コンポーネントとは基板上に実装される電子部品のことであり、トレースはそれらのコンポーネントを電気的に接続するために使用される銅線を指します。
大規模かつ複雑なプロジェクトでは、PCBレイアウトの作業だけで数ヶ月以上要することも珍しくありません。
今回は、PCB設計自体の説明や業界全体にわたる普遍的な課題を踏まえつつ、生成AIを活用してPCBレイアウトを自動化するサービス「Quilter」を紹介します。
PCB設計とは
PCB設計とは、プリント基板(PCB)上に電子部品を配置し、それらを電気的に接続する設計作業のことです。
要件に合わせてコンポーネントを適切に配置し、トレース配線を整備するだけではなく、設計の仕方によって製品の耐久性や熱の分散が大きく影響されるため、高度な技術と経験が求められます。
PCBは、コンピュータ・スマートフォン・家電製品・医療機器を含む、ほぼ全ての電子機器に不可欠な部分であり、多くの製品の中核を形成しています。
PCB設計における課題
PCB設計における課題として、「時間を要すること」と「人材不足」の2つが挙げられます。
時間がかかる主な理由としては、先に述べたコンポーネントの配置とトレースの整備の複雑性に加え、設計制約の適用や、DRCで設定された基準を満たさない場合の追加作業が挙げられます。
設計制約には、
- トレース幅:電流容量(電流の量を安全に運べる能力)に基づいてトレースの幅を決定すること
- クリアランス:回路のショートを防ぐためにトレース間やトレースとコンポーネント間の最小距離を指定すること
- ビアのサイズと配置:ビア(基板を構成している異なるレイヤーの間で電気的接続を行うために使用される穴)が適切なサイズ・配置になっていること
- インピーダンス(電流の流れにくさ。Ω。)制御:高周波信号を扱う場合に、インピーダンスが一貫していること
- 熱管理:コンポーネントから発生する熱を効率的に分散させること
などの制約があります。また、DRCはこれらの制約が守られていることのチェックに加え、設計が製造可能か確認するために行われます。DRCで問題が見つかった場合、設計制約を守りつつ、DRCの基準に合致するよう設計を見直し、修正する必要があります。
もう1つの課題は、人材不足です。
SDKIという企業によるPCB設計市場に関する詳細な調査では、PCB設計市場は2022年時点で約40億ドルの市場規模であるのに対し、2035年には約160億ドルに達すると予測されています。
PCB設計には高度な技術と経験が求められるため、現時点でも設計に習熟した一部の技術者が重宝されています。若手人材や未経験の人材が短期間で習得できるものではなく、市場の成長に対し人材の供給が追いつかなくなる可能性が高いと言えます。
Quilterの機能
QuilterはPCB設計の中でも、PCBレイアウトを自動化する生成AIサービスです。
DRCに準拠するようなコンポーネント配置やトレース整備は、PCBレイアウトを行う際に行われます。そのため、この業務が自動化されることによって、数日から数ヶ月の作業時間を削減することに繋がります。
Quilterを使用する手順は、以下の5ステップで構成されます。それぞれ詳細に解説します。
回路図の用意
(引用:https://www.quilter.ai/workflow#schematic )
QuilterはPCBレイアウトの自動化を支援するサービスであるため、レイアウト設計をする前に回路図を用意する必要があります。
回路図を作成する際、一般的には Altium や KiCAD といったECADアプリケーションが利用されます。Quilterはこれらのアプリケーションで使用されるファイル形式に対応しており、レイアウト完成時のファイル形式も、回路図で使用されたファイル形式に統一されます。
ボードファイルの準備
(引用:https://www.quilter.ai/workflow#board-file )
Quilter上のボードファイルとは、どのコンポーネントを配置するか・どのトレースを配線するか・どの範囲のレイアウトを手動で構築するかなどを定義した、指示書のようなものです。
下記の4ステップでボードファイルが機能します。
ボードのアウトラインを定義する
最初に、Quilterに作業してもらいたいボードの境界を定義します(上記画像の緑色と黒色の部分)。
コネクタを配置する
続いて、Quilterに設定されていないコネクタやその他のコンポーネントがあれば、それらを配置します。
ファイルをアップロードする
新しいジョブを作成し、回路図とボードファイルをアップロードします。
Quilterが残りを処理
ボードのアウトラインより外側にある領域は、全てQuilterのAI設計エージェントによって配置・配線されます。一方で内側に指定されたコンポーネントやトレースの位置は、変更されない仕様になっています。
設計制約を定義する
(引用:https://www.quilter.ai/workflow#Constraints )
Quilterには、「制約マネージャー」というツールが搭載されており、これを使用して制約の定義、インポート、およびレビューが可能です。
この制約マネージャーを利用することで、コンポーネントへの制約設定や、指定されたアンペア数に基づく適切なトレース幅の計算を行うことができます。
さらに、名前を付けて制約の定義を保存する機能があるため、以前に使用した制約セットを再利用することが可能になります。
レイアウトを自動実行する
(引用:https://www.quilter.ai/workflow#design )
ジョブが開始すると、QuilterのAI設計エージェントは内部で何百万ものコンポーネント配置・トレース・スタックアップ(PCBの各層の配置や材質のこと。PCBは複数の層で構成されることが多く、それぞれの層にトレースや絶縁材料が配置される。)の組み合わせを検討し、設定された要件に沿って最適化されたレイアウトを生成します。
レイアウトが完成するまでに数分から数時間を要しますが、これは従来の数日から数ヶ月を要する作業を大幅に短縮するものです。
加えて、QuilterによるレイアウトはDRC違反がないことが保証されており、これだけでも手動や目視チェックする場合と比べ、数時間から数日の工数を削減できます。回路図と同様のファイル形式でレイアウト出力されるため、独自のDRCを実行して確認することもできます。
レイアウトを確認し、ダウンロードする
(引用:https://www.quilter.ai/workflow#download )
Quilterを使用すると、一度の自動実行で数十種類のレイアウトが生成されます。
ユーザーは提供されたレイアウトから最適なものを選び、ダウンロードすることができます。また、レイアウトの特性を基にフィルタリングし、「もっとこうしてほしい」という具体的なフィードバックを提供することも可能です。
レビューに基づいてQuilterが指示に従って修正を行うので、複数回のレイアウト実行を重ねることにより、期待に沿ったレイアウトを得ることが可能です。
まとめ
Quilterは生成AIを活用することで、ECADで作成された回路図とボードファイルのデータを読み取り、PCBレイアウトを自動化していることがわかりました。
生成AIは、回路図データの読み取りと、レイアウトの自動生成の部分で使用されていることが予想されます。
弊社でも図や表のデータを自然言語として保持し、それらの情報をもとに自然言語での回答を行わせる処理を研究開発しております。
また、私たちは大規模言語モデルに専門知識を埋め込む「RAG」という技術や、非構造・半構造のデータを構造化・正規化することに強みを持つ会社です。
それらの技術を活かしたプロジェクト組成やMVP開発のご支援も行っておりますし、「そもそもどのような業務に生成AIを活用できそうか」という上流工程から伴走することも可能です。「情報収集も兼ねて相談したい」というお客様も、お気軽にお問い合わせください。
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